「大学ランキング指標に関する基本的考え方」について

平成28年3月30日
関係各位

大学研究力強化ネットワーク
大学ランキング指標に関するタスクフォース
(座長 岡山大学 副学長・理事 山本進一)

「大学ランキング指標に関する基本的考え方」について

 昨年、2人の日本人研究者がノーベル賞を受賞し、日本人(米国籍になられた方も含む)のノーベル賞受賞者総数は24人に達しました。21世紀以降の自然科学分野(物理学、化学、生理学・医学)におけるノーベル賞受賞者数では、日本が世界第2位の15人となりました。こうした業績からも明らかなように、これまでの日本の大学や研究機関における学術研究は、知の開拓への挑戦と多様性の確保・蓄積により世界の科学の発展をリードし、近年、特に高い評価を得てきました。

 他方、時を同じくして公表された英国のTES global社が毎年発表している「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(Times Higher Education:以下THE)」の世界大学ランキングでは、日本の大学の順位が大きく低下しました。この順位変動は、論文引用に関するデータベースやスコア算出の方法等の変更によるところが大きく、前回の順位と比較して単純に「上昇した」、「低下した」と議論すべきではないとTES global社自身が今年度の公表時に注意を促しています。

 今回の大きな順位変動から、評価方法や評価機関によって大きく結果が変動し得る世界大学ランキングについて、あらためて考えさせられます。民間企業がつくる大学ランキングに、行政やマスコミ、大学の執行部等が、振り回され追従することは、日本の大学の独自性や多様性を失うことにもなりかねないと深く危惧されます。

 その一方で、今回の結果は、「THE」をはじめとする世界大学ランキングにおいて、論文引用指標をはじめとする大学の研究力を評価する指標が決定的に大きな影響力を持つことを私たちにあらためて強く印象づけました。以前から指摘されてきた、日本の研究力の低下、論文生産の質・量における日本の存在感の相対的な低下を直視し、個々の大学において主体的な改革の努力を重ねることはもとより、政策レベルで適切な対応がとられることが急務であります。

 私たちは、「大学研究力強化ネットワーク」として、研究大学における学術研究の発展のため、自主的かつ主体的に集まり、これまでに様々な提言等の情報発信を行ってきました。具体的には、日本の学術研究を支えてきた科学研究費助成事業をはじめとする研究費の充実や、全面的な学術研究助成基金化、先端研究設備の共同整備及び技術専門家の確保、若手研究者支援、研究環境整備等に関する提言を行いました。ここであらためて、それらの提言等への留意を求めるとともに、ランキングに一喜一憂することなく、日本の大学の研究力強化のためにできることについて、冷静かつ長期的視野に立ったご理解を各界にお願いしたいと考えています。

 そこで、ここに、日本の大学・研究機関の立場からみた「大学ランキング指標に関する基本的考え方」として、我々の意見を表明するものです。あわせて、「大学や研究機関の研究力等を測る様々な客観的指標について」、その考え方を表明いたします。


大学研究力強化ネットワーク・大学ランキング指標タスクフォース 一同
岡山大学(幹事校)、東京農工大学、電気通信大学、新潟大学、金沢大学、広島大学、情報・システム研究機構、自然科学研究機構(世話役)


(本件に関する問い合わせ)
大学研究力強化ネットワーク・大学ランキング指標タスクフォース
担当:自然科学研究機構 小泉周 特任教授
03-5425-1301、nins-ura@nins.jp

 

「大学ランキング指標に関する基本的考え方」

○世界大学ランキングは、各大学が教育研究力について認識し自己改革に結びつけるためのツールのひとつであり、単なる“順位ありきの大学・研究機関間の競争”であってはならない。大学ランキングには様々なものが数多くあり、それぞれの評価方法や評価機関によって大きく変動し得る「順位」そのものに振り回されてはならない。

○大学ランキングに用いられている数多くの客観的評価指標については、その数値・内容を十分に理解・判断したうえで抽出(選択)し、大学・研究機関の総合力を測るひとつのベンチマークとして、自組織の研究力強化促進へ活用することが重要である。また、指標の絶対値には大きな意味が無いことが多いため、同じ条件下で得られた指標について、 経年的な変化を追って傾向を知ることがより有効である。

○特に、人材育成という観点では、既存の大学ランキングにおける評価指標が十分でないと感じられる。例えば、大学における論文作成の意義は、必ずしも多数の引用を受ける高インパクトの研究成果を出すことのみではなく、論文作成指導を通じた人材育成も含まれている。また、論文が研究成果公表の主たる媒体で無い研究領域も存在する。大学における産業界との連携についても、単なる経済的な結びつきだけでなく、人材育成が重要な要素となっている。論文引用指標等を誤って適用してしまうと、この大学機能として重要な人材育成という観点において、各大学の実態とそぐわず、日本の大学が持つ多様性を失うなど、誤った評価となってしまうことが危惧される。

○一律的な指標をセットとして個々の大学の評価にすべからく当てはめることは避けるべきである。大学はそれぞれの特徴に応じて独自に掲げたミッションを持っており、一律的な指標による数字だけでは必ずしも評価できない。また、定量的評価を行う際には、必ず、ピアレビューも含めた定性的な評価を組み合わせることが必要である。

 

大学や研究機関の研究力等を測る様々な客観的指標について」


 日本の科学・技術の進展をささえてきた大学や研究機関における研究を、あらためて活性化させ、国際的競争の中で、日本の科学・技術的強みを発揮していくことが、今、求められている。そのために大学や研究機関が自己の研究力等を認識するための相対的指標として、様々な客観的指標を活用することが望ましい。
 大学等においては、大学等ごとにビジョンがまずあるべきであり、そのもとで、自身の研究力等を継続的に把握するために適切な指標を活用することが望ましい。ビジョンによっては、第三者機関等から提示される指標のすべてが大切ではなく、大学等ごとに適切な指標を自ら選ぶ必要がある。

(研究に関して)
(1)論文数
 研究分野によっては多数の論文が評価される分野とそうでない分野がある。また、大学の規模や総合大学かどうかという点も重要であり、単なる論文数だけを比較対象としてしまうことは避けたほうがよい。少なくとも、教員数で割るなどの補正は必要である。
(2)論文引用指標
 論文引用数に基づく指標は、大学の総合的な研究力を定量的に把握するうえで重要となる指標のひとつである。ただし、論文引用数重視が行き過ぎれば、科学的知見をあとに続く研究者や後世に残していくという重要な学術的営みに対して、「引用が期待できない論文は発表しない」というネガティブな研究マインドや、「引用が多く期待されるレビュー記事などが過度に増加する」といった歪みを生み出しかねない点は、留意すべきである。
 論文引用指標としては、単純に論文1本当たりの引用数(平均被引用数、他の論文に引用された回数の平均)を用いるのではなく、分野・論文種別などの補正を行ったり、大学の規模・特徴を考慮したりした上で比較されることが望ましい。さらに、指標の経年的な変化を追うことも、大学の研究力の動向を把握する上で重要と考える。
(3)トップ1%論文、トップ10%論文
 トップ1%論文(論文被引用数が各分野、各年で上位1%に入る論文)やトップ10%論文(同10%に入る論文)を産出できるかどうかも、大学の研究力の指標としてよく用いられる。ただし、こうした論文数は大学の規模に大きく依存するため、大学間でトップ1%論文・トップ10%論文の絶対数を比較することはあまり意味がない。
 一方、トップ10%(1%)論文数を大学全体の教員数でわった指標(教員一人当たりトップ10%(1%)論文数)や、大学の論文総数でわった指標(学内 のトップ10%(1%)論文数シェア)を用いるほうが、大学の研究力を把握する上で適切であると考える。 
 また、論文のトップ1%やトップ10%を議論する際は、学術分野のカテゴ リー分けが重要になるが、データを算出する分析会社の定義ではそのカテゴリーが必ずしも日本の学術分野や学部構成と合致していない。学術分野のカテゴリーが適切かどうかも注意する必要がある。

(産学連携指標に関して)
(4)特許数
 特許は研究力の重要な指標のひとつであるが、必ずしも特許数が多いほうが良いとは限らない。世界の著名な大学は必ずしも出願特許数は多くはない。
また、この点では、研究分野によって大きな違いがあるものと考えられる点も注意を要する。
(5)特許収入など産業界からの収入
 特許収入などの産業界からの収入もひとつの重要な指標である。教員一人当たりの特許収入を指標とするなど考えられる。しかし、日本の大学における産業界との連携は、必ずしも、経済的な結びつきによるものだけでなく、収入だけを評価にしないよう、注意を要する。
(6)人材育成
 大学等と産業界との連携においては、人材育成が重要な要素のひとつとなっている。例えば、論文作成指導を通じた人材育成の観点での産学連携評価のために、産業界の人材と大学で共同して発表する産学共著論文数(Academic corporate collaboration)が、指標として考えられる。
また、教員一人当たりの社会人ドクター数や共同研究参画学生・企業研究員数などの指標も考えられる。
(7)産学間での知識の供与と共有
 産学間での知識の供与と共有について評価するため、特許における論文引用数や、共同研究契約件数、また、知識供与に関する顧問料・相談料などの指標の導入についても検討が必要である。
(8)大学発ベンチャーや大学資本を投下した組織の評価
 大学の研究アイデアや成果などを用いて起業された大学発ベンチャーの財務関係等を考慮した評価や、大学資本を投下しているNPOなどの組織運用の体質を評価する指標の検討が必要である。

(教育に関して)
(9)外国人比率
 大学ランキング等に用いられている現行の指標では、外国人比率が高ければ高いほど、International outlook が上昇する仕組みとなっている(もし 100%外国人という大学が存在すれば、外国人率で最大化する)。極端には100%外国人だけの大学があっても、必ずしも良い国際環境とはいえず、国内の学生との適切な割合ができることが、国際化において重要である。そこで、外国人比率のカウントには、Entropy 指標の導入が適切である(100% が最適でなく、半々で最大化するような指標)。
(10)学生アンケート調査等
 そもそも教育に関しては、定量的な指標の設定が難しい。SERU(Student Experience in the Research University)のような学生アンケート調査を用いた教育の質の改善についての動向もあり、定性的な部分も含めた教育の国際的な質保証に向けた取り組みが重要であると考えられる。